前回の記事では、クリニック開業における立地選びの基本的な考え方や評価ポイントについて解説しました。本記事では、その内容を踏まえ、仮想のロールモデルによる成功事例・失敗事例を通して、立地選定でどのような判断が成功と失敗を分けるのかを具体的にご紹介します。
クリニック開業における立地選定の成功事例・失敗事例|仮想事例から学ぶ失敗しない立地選び
クリニックの立地は、一度決めると簡単に変更できるものではありません。
そのため、開業前の立地選定は、医療サービスの内容や経営戦略と同じくらい重要な意思決定の一つです。
実際には、優れた医療技術や専門性を持っていても、立地選びを誤ることで十分な集患ができず、経営に苦労するケースがあります。一方で、地域の医療ニーズを的確に把握し、自院の強みを活かせる場所を選択できれば、開業後の経営を安定した軌道に乗せやすくなります。
もちろん、立地だけで成功や失敗が決まるわけではありません。しかし、立地は開業後の集患や認知度、患者の通いやすさ、さらには将来的な経営の安定性にも大きく影響するため、慎重な判断が求められます。
この記事では、仮想のロールモデルをもとに、立地選定で成功したケースと失敗したケースを比較しながら、開業時に押さえておきたいポイントを具体的に解説します。
この記事で分かること
- 成功するクリニックが立地選定で重視しているポイント
- 診療圏調査や競合調査の活用方法
- 人気エリアでも失敗する理由
- 将来性を考慮した立地選定の重要性
- 開業前に確認しておきたい判断基準
成功事例
地域ニーズを的確に把握し、競合の少ないエリアで開業した「伊達政宗ファミリークリニック」
ロールモデル
新寺一郎医師(内科・45歳)
新寺医師は大学病院で約20年間勤務し、総合内科医として幅広い診療経験を積んできました。
「地域医療に長く貢献できるクリニックをつくりたい。」
その思いから40代半ばで開業を決意します。
しかし、新寺医師は「良い物件が見つかったから」という理由だけで開業場所を決めることはありませんでした。
むしろ、開業場所こそが今後10年、20年のクリニック経営を左右すると考え、診療内容と地域ニーズが一致する場所を探すことを最優先にしました。
その結果、多くの時間を立地選定に費やすことになります。
開業候補地を決めるまでのプロセス
まず、新寺医師は診療圏調査を実施しました。
診療圏調査では、
- 人口
- 年齢構成
- 将来人口
- 世帯数
- 医療需要
- 競合医療機関
などを総合的に分析し、自院の診療内容に適した地域を探しました。
その結果、候補地として浮かび上がったのが仙台市若林区の新寺・連坊エリアでした。
この地域は再開発が進み、若年層や子育て世帯の流入が続いており、人口が増加傾向にありました。
また、地域全体の人口だけではなく、内科を受診する患者層との親和性も高く、地域住民の日常的な診療ニーズが期待できるエリアであることが分かりました。
さらに調査を進めると、周辺には内科クリニックが存在するものの、人口増加に対して医療供給が十分とはいえず、新たなクリニックを受け入れる余地があることも確認できました。
ここで新寺医師は、
「人口が多い地域だから開業する」
のではなく、
「地域が必要としている医療を提供できるか」
という視点で判断したことが、大きなポイントでした。
MMDワンポイント
診療圏調査は「人口が多い場所を探す」ためのものではありません。
「その地域に、自院が提供する医療サービスを必要とする患者がどれだけ存在するか」を把握するための調査です。
人口が多くても競合が非常に多ければ、十分な患者数を確保できないこともあります。
競合調査から見えてきた差別化の可能性
新寺医師は診療圏調査だけで判断することはありませんでした。
続いて、周辺クリニックの競合調査を実施します。
競合調査では、
- 診療科
- 診療時間
- 医師の年齢
- ホームページ
- WEB予約の有無
- Googleマップの口コミ
- 駐車場
- 医療機器
- 専門外来
などを一つひとつ確認しました。
その結果、近隣には一定数の内科クリニックが存在していましたが、多くは開業から長い年月が経過しており、ホームページによる情報発信やWEB予約への対応は限定的でした。
もちろん、長年地域医療を支えてきた実績は大きな強みです。
しかし一方で、新寺医師は
- ホームページを充実させる
- WEB予約を導入する
- SNSで地域へ情報発信する
など、患者との接点を増やす取り組みによって差別化できると判断しました。
ここで重要なのは、
「競合がいるから諦める」のではなく、「競合とどう違いを出せるか」を考えたことです。
競合調査の目的は、競合を避けることだけではありません。
競合を理解し、自院ならではの価値を明確にすることも重要な目的の一つです。
成功の決め手となった立地条件
新寺医師は、交通アクセスにも十分配慮しました。
選んだ物件は、
- 最寄駅から徒歩5分
- バス停が近い
- 駐車場を確保
- 幹線道路からアクセスしやすい
という、多様な来院手段に対応できる立地でした。
さらに、駅やスーパーなど、人の流れが集中する**トラフィックジェネレーター(TG)**の近くに位置していたため、地域住民の目に留まりやすい環境でもありました。
患者は「通いやすいクリニック」を選ぶ傾向があります。
通勤や買い物の途中で立ち寄れる立地は、継続受診につながりやすく、特に慢性疾患を抱える患者にとって大きなメリットになります。
また、クリニックは視認性の高いメインストリート沿いにあり、分かりやすい看板を設置したことで地域住民への認知も早く広がりました。
立地・アクセス・認知性の三つが相乗効果を生み、開業当初から順調な集患につながったのです。
MMDメモ
「駅から近い」「人通りが多い」という条件だけで立地を評価するのは危険です。
実際には、
- 車で来院しやすいか
- 高齢者が歩きやすいか
- 駐車場へ入りやすいか
- 看板は十分見えるか
といった患者目線で確認することが重要です。
結果
「伊達政宗ファミリークリニック」は、開業から半年ほどで地域住民の間に口コミが広がり、予約が埋まる日も増えていきました。
ホームページやSNSを活用した情報発信も地域住民の認知向上につながり、新規患者だけでなく継続的に通院する患者も着実に増加しました。
開業2年目にはスタッフを増員するまでに成長し、地域医療を支えるクリニックとして順調なスタートを切ることができました。
失敗事例
立地の将来性を見誤り、競合が多いエリアで苦戦した「未戦略メディカルクリニック」
ロールモデル
未戦略太郎医師(整形外科・45歳)
未戦略医師は大学病院で約20年間勤務し、整形外科医として豊富な臨床経験を積んできました。
地域でも知名度があり、「開業しても患者さんは来てくれるだろう」という自信を持っていました。
開業場所として選んだのは、宮城県内でも人気が高く、人口が多い住宅地でした。
駅も近く、人通りも多いことから、「ここなら患者数も多いはず」と考え、比較的早い段階で物件契約を進めました。
しかし、この判断が後に経営を大きく左右することになります。
診療圏調査を行わず、「人気エリア」という印象だけで判断
未戦略医師は、
「人口が多い地域なら患者も多い」
という考えから、詳細な診療圏調査を実施しませんでした。
また、
- 年齢構成
- 受療率
- 将来人口
- 地域住民の医療ニーズ
についても十分な分析を行わず、「人気住宅地」というイメージだけで立地を決定しました。
確かに人口は多く、住宅開発も進んでいました。
しかし、その地域では以前から整形外科の需要が高いことが知られており、多くのクリニックが既に開業していました。
つまり、
人口が多いことと、新たなクリニックが成功できることは必ずしも一致しなかったのです。
MMDよくある勘違い
「人口が多い地域=開業に有利」と考えられがちですが、それだけでは十分ではありません。
大切なのは、
- その地域にどれだけ医療需要があるか
- 既存クリニックで需要が満たされていないか
- 自院が新たに選ばれる理由を作れるか
という視点です。
人口だけで判断すると、競争の激しい市場へ参入してしまう可能性があります。
競合調査が不十分だったことが大きな要因に
開業後、未戦略医師は予想以上に患者が集まらないことに驚きました。
その理由は、競合クリニックの存在でした。
駅前には複数の整形外科クリニックがあり、その多くは地域で長年診療を続けている医院でした。
さらに、
- オンライン予約
- MRI・リハビリ設備
- ホームページ
- Googleマップでの口コミ
- 地域住民からの高い信頼
など、多くの強みを持っていました。
未戦略医師は、
「競合はあるが、自分の経験があれば十分勝負できる」
と考えていました。
しかし実際には、患者は医療技術だけで医療機関を選ぶわけではありません。
通いやすさや認知度、これまでの通院歴など、さまざまな要素が受診先の選択に影響します。
競合調査では、
「競合がいるか」
だけでなく、
「競合がどれほど強いのか」
まで確認することが重要です。
アクセス面でも競争力を失っていた
立地は駅から徒歩約7分。
数字だけを見ると悪くない距離でした。
しかし実際には、駅から徒歩3〜5分圏内に複数の整形外科クリニックがあり、多くの患者は途中で既存クリニックへ到着してしまいます。
患者から見れば、
「さらに数分歩いて新しいクリニックへ行く理由」
が見つかりませんでした。
さらに、
- 専用駐車場がない
- コインパーキングの提携もない
- 車で来院しづらい
という状況だったため、高齢患者の多い整形外科では大きな不利となりました。
整形外科では、
- 膝痛
- 腰痛
- 骨折後
- リハビリ通院
など、歩行に負担を抱える患者も少なくありません。
診療科によっては、徒歩数分の差や駐車場の有無が患者満足度へ大きく影響します。
MMDワンポイント
「徒歩○分」という数字だけでは患者の利便性は判断できません。
実際には、
- 信号の数
- 坂道の有無
- 歩道の広さ
- 雨の日でも通いやすいか
なども患者にとって重要な評価ポイントになります。
将来性まで考慮できていなかった
開業当初は問題なく思えた経営も、数年後にはさらに厳しくなります。
周辺地域では再開発が進み、地価や賃料が上昇しました。
更新時には家賃が増額され、人件費や物価の上昇も重なり、経営を圧迫していきます。
立地を選ぶ際には、
現在だけでなく、
- 今後の人口動向
- 再開発計画
- 賃料の推移
- 競合の新規開業予定
なども可能な範囲で確認することが重要です。
開業は10年、20年と続く長期的な経営です。
「今良い立地」で終わらず、
将来も安定して経営できるか
という視点を持つことが大切です。
結果
「未戦略メディカルクリニック」は開業後も患者数が伸びず、広告やホームページの改善、デジタルマーケティングにも取り組みました。
しかし、既に地域で確立された競合クリニックとの差を埋めることは容易ではありませんでした。
経営改善に向けて努力を重ねたものの、期待していた患者数には届かず、最終的には開業から3年後に閉院し、新たな地域での再スタートを検討することとなりました。
もちろん、この事例は仮想のロールモデルです。
しかし実際の開業支援においても、
「人気エリアだから成功する」
「人口が多いから安心」
という考えだけで立地を決定してしまうことは、大きなリスクにつながる可能性があります。
成功事例と失敗事例から学ぶ、立地選定のポイント
ここまで、成功事例と失敗事例を比較してきました。
両者を比較すると、成功と失敗を分けたのは「運」や「偶然」ではありません。
開業前にどれだけ情報を集め、客観的に判断できたかという点が、大きな違いでした。
立地選定では、「良い場所を探す」という考え方だけでは不十分です。
その場所が、
- 自院の診療科に適しているか
- 地域住民の医療ニーズに合っているか
- 将来も安定した経営が期待できるか
という複数の視点から総合的に評価することが重要です。
成功につながったポイント
① 診療圏調査と競合調査を十分に行った
成功事例では、開業前に診療圏調査と競合調査を徹底的に実施していました。
人口だけを見るのではなく、
- 年齢構成
- 世帯数
- 将来人口
- 医療需要
- 競合状況
まで分析したことで、
「その地域で本当に必要とされる医療」
を客観的に判断することができました。
診療圏調査は「患者数を予測する」だけでなく、開業後の経営リスクを減らすための重要な判断材料になります。
② 地域ニーズと診療内容が一致していた
立地選びでは、
「自分が開業したい場所」
ではなく、
「患者が必要としている場所」
という視点が欠かせません。
例えば、
- 小児科であれば子育て世帯が多い地域
- 整形外科であれば高齢者人口が多い地域
- 内科であれば幅広い世代が居住する住宅地
など、診療科によって適した立地は異なります。
人気エリアだからではなく、自院の診療内容と地域特性が一致しているかを確認することが重要です。
③ 患者目線でアクセスを評価した
成功事例では、
- 徒歩
- 自動車
- バス
- 自転車
など、さまざまな来院方法を想定していました。
患者は、
「通いやすい」
と感じる医療機関を継続して利用する傾向があります。
駅から近いだけでなく、
- 駐車場へ入りやすいか
- 高齢者でも歩きやすいか
- 雨の日でも来院しやすいか
なども、長期的な集患に影響します。
MMDチェック
物件見学では、建物だけを見るのではなく、患者目線で周辺環境も確認しましょう。
□ 駐車場は利用しやすいか
□ 車の出入りはしやすいか
□ 看板は十分見えるか
□ 歩道は安全か
□ 高齢者や車椅子でも利用しやすいか
□ 周辺施設との相乗効果は期待できるか
失敗につながりやすいポイント
人気エリアだから安心とは限らない
「人気住宅地」
「人口が多い」
という理由だけで立地を決めることは危険です。
人気エリアほど、
- 競合クリニックが多い
- 家賃が高い
- 広告費がかかる
などのデメリットも存在します。
地域の人気だけではなく、
医療需要と供給のバランス
を確認することが重要です。
競合の数ではなく「強さ」を見る
競合が少ないことが必ずしも良いとは限りません。
また、
競合が多いことが必ず失敗につながるわけでもありません。
重要なのは、
- 地域住民からの信頼
- 専門性
- 診療時間
- 医療機器
- ホームページ
- WEB予約
- 口コミ
などを総合的に確認し、
自院がどのように差別化できるかを考えることです。
将来性を考慮する
開業は短期間の事業ではありません。
10年後、20年後も安定した経営を続けるためには、
現在だけでなく、
- 人口推移
- 再開発
- 商業施設
- 新しい道路
- 鉄道計画
など、将来の地域変化も確認しておくことが望ましいでしょう。
将来の変化を完全に予測することはできませんが、行政が公表している都市計画や人口推計などは参考になります。
MMDメモ
「良い立地」は一つではありません。
診療科や診療方針、ターゲットとする患者層によって、最適な立地は異なります。
重要なのは、「人気の場所」を探すことではなく、「自院に合った場所」を見つけることです。
まとめ
今回ご紹介した成功事例・失敗事例は、いずれも仮想のロールモデルですが、立地選定を考えるうえで重要なポイントを理解するための一例です。
クリニック開業では、
- 診療圏調査
- 競合調査
- 交通アクセス
- 視認性
- 将来性
など、多くの要素を総合的に判断する必要があります。
一つの条件だけで物件を決めるのではなく、それぞれの条件を比較しながら、自院の診療方針や地域ニーズに最も適した場所を選択することが、長期的な経営の安定につながります。
立地選びは、開業準備の中でも特に重要なプロセスです。
十分な情報収集と客観的な分析を行い、納得できる判断を積み重ねることが、地域に長く愛されるクリニックづくりへの第一歩となるでしょう。
よくある質問(FAQ)
人気エリアであれば開業は成功しやすいのでしょうか?
必ずしもそうではありません。人気エリアは人口が多い一方で、競合医療機関も多い傾向があります。人口だけではなく、医療需要や競合状況、診療科との相性を総合的に判断することが重要です。
診療圏調査だけで立地を決めても良いのでしょうか?
診療圏調査は重要な判断材料ですが、それだけで決めることはおすすめできません。実際に現地を訪れ、交通量や周辺環境、患者の動線なども確認することで、より実態に近い判断ができます。
競合クリニックが多い地域では開業できませんか?
競合が多いことだけを理由に避ける必要はありません。競合の診療内容や特徴を把握し、自院の強みや差別化できるポイントを明確にできれば、十分に開業の可能性があります。
現地確認では何を見れば良いのでしょうか?
建物だけでなく、駐車場の利用しやすさ、道路状況、歩行者の流れ、周辺施設、看板の見え方など、患者の立場で確認することが大切です。
開業をご検討中の先生へ
MMD-STARTUPでは、宮城・仙台でクリニック開業をご検討されている先生へ、
- 開業物件のご紹介
- 診療圏分析
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