クリニックの開業において、立地選びは成功の鍵を握る最も重要な要素の一つです。適切な立地を選ぶことで、安定した患者数を確保し、経営の安定化を図ることが可能です。今回は、クリニック開業にあたって押さえておきたい立地選びのポイントを詳しく解説し、さらに、患者が集まりやすい場所を選定するための具体的な条件についても深堀りしていきます。
クリニック開業時に考慮すべき立地選びのポイント
立地選びの際に重要な要素として、次の3点を中心に検討することが必要です。
1. 交通アクセスの良さ
交通アクセスの良さは、患者の来院頻度に直結します。クリニックの利用者は体調が優れないことが多いため、アクセスのしやすさは特に重要です。具体的には、最寄りの駅やバス停からの距離や、運行本数などを詳しく調べることが求められます。また、公共交通機関が不便なエリアでは、自家用車で来院する患者のために近隣に駐車場があるか、駐車スペースの数は十分かどうかも確認が必要です。
交通の利便性が良い場所を選ぶことで、スタッフの通勤もスムーズになり、採用にも好影響を与えるでしょう。スタッフの定着率や募集のしやすさに関しても、このアクセス条件が影響を与えるため、交通アクセスは経営全体に大きな役割を果たします。
2. 競合の状況を確認
立地選びにおいて、競合クリニックの存在は非常に重要なファクターです。同じエリアに多くのクリニックが存在する場合、患者を取り合う形になるため、特に診療科目が同じ競合が多い地域では、集患が難しくなる可能性があります。
競合の数だけでなく、そのクリニックがどのような評判を持ち、どのような強みを持っているのかもリサーチしておくことが大切です。例えば、最新の設備を持つ競合や、患者満足度が高く口コミで評判の良いクリニックがある場合、それに対抗するための差別化が必要です。逆に、競合が少ない、あるいは評判が悪い場合は、自院が優位に立てるチャンスが大きくなります。
3. 診療圏調査の活用
診療圏調査を行うことで、地域の人口動態や、年齢別の人口構成、昼夜間人口、そして住民の生活様式や労働形態を把握することができます。こうしたデータをもとに、クリニックを開業した場合にどの程度の患者数が見込めるのかを予測することが可能です。
特に重要なのは、その地域にいる人口が実際にどの時間帯にクリニックを利用するかということです。昼間は人通りが少ないオフィス街などでは、夜間にクリニックを訪れる患者が多くなるかもしれませんし、逆に住宅地では昼間の時間帯に主婦や高齢者の来院が多くなる可能性があります。このように、時間帯ごとの人口流動も診療圏調査を通じて理解することが重要です。
診療圏調査は専門業者に依頼することで、より詳細で信頼性の高いデータを入手することができ、自力での調査よりも精度の高い結果が得られます。また、データだけでなく、実際に現地に足を運び、人の流れや地域の雰囲気を感じ取ることも大切です。
患者が集まりやすい立地の3つの条件
続いて、具体的に患者が集まりやすいクリニックの立地条件を3つ挙げ、それぞれ詳しく解説していきます。
① 需要が供給を上回る地域を選ぶ
どの地域にクリニックを開業するにしても、需要と供給のバランスが非常に重要です。診療圏調査を活用し、その地域に住む人口構成や、見込み患者数を予測することがまず第一です。特に、年齢や性別ごとにどのくらいの頻度でクリニックを利用するか(受療率)を考慮することで、どの診療科目が需要を集めやすいかを判断できます。
需要が供給を上回る地域、すなわち人口の多い地域であっても、競合クリニックが多ければ、結果的に1軒あたりの患者数は少なくなる可能性が高いです。反対に、需要がそこまで高くない地域であっても、競合が少ない場合は、自院が多くの患者を集めることができる可能性があります。1クリニックあたりの平均患者数が多い地域が、成功する開業場所の基本的な条件となります。
② 競合が弱い地域を狙う
競合クリニックが少ない、あるいは既存の競合がそれほど強力でない地域を選ぶことは、開業後に多くの患者を集めるための重要な戦略です。競合の見極めはシンプルで、来院経路が不便なクリニック、オンライン上での情報が不十分なクリニック、口コミ評価が低いクリニックが多い地域ほど、自院に有利な競争環境を作り出すことができます。
例えば、競合が目立たない場所にある場合や、口コミでの評判が悪いクリニックが存在する場合は、これを逆手に取って、自院の強みをアピールすることが有効です。さらに、ネット集患に力を入れていないクリニックが競合として存在する場合は、デジタルマーケティングを活用することで大きな差別化が図れます。
③ 認知されやすい場所に開業する
いくら需要と供給のバランスが良くても、クリニックの存在が認知されなければ、患者を集めることはできません。クリニックを開業する場所は、人通りが多く、視認性が高いことが理想的です。看板や建物の入口が目立つように配置できるか、ビル内のフロア選びなども重要です。
また、「トラフィックジェネレーター(TG)」と呼ばれる、駅やショッピングモール、大型ドラッグストアといった人が集まる施設に隣接した場所を選ぶことも、集患の鍵となります。特に、通勤や買い物のついでに来院しやすい場所を選ぶことで、認知度を自然に高めることができます。加えて、横断歩道や信号機の近くは信号待ちの時間にクリニックの存在を認識しやすいため、視覚的なアプローチも意識しましょう。
立地の将来性も重要視する
日本の人口減少に伴い、将来的な市場競争がさらに激化することが予測されます。そのため、立地を選定する際は短期的な条件だけでなく、長期的な将来性も評価することが重要です。
将来的に人口が増加する地域か?
自治体が公表している人口予測データや、再開発計画などを参考に、将来的に人口が増える可能性のある地域を選ぶことが重要です。ただし、人口増加が見込まれる地域は競合の参入も増える傾向があるため、リスクとリターンのバランスを考慮しながら判断しましょう。
立地選びのまとめ
クリニックの立地選びは、決して簡単なことではありません。開業時における立地選定は、交通の利便性、競合の存在、診療圏調査の活用、認知性、そして将来性のある場所での開業が成功のカギとなります。戦略的に立地を選定することが、長期的なクリニック経営にとって非常に重要です。
最後に、立地選びの際に大切なことは、
- 地域の特性を理解する
- 競合との差別化を図る
- 長期的な視点を持つ