クリニック開業を成功させるためには、診療方針や資金計画だけでなく、「どのような物件で開業するか」というテナント選びも非常に重要な要素となります。
立地や診療圏と同様に、テナントの種類や仕様によって、開業時の初期投資や工事期間、さらには開業後の診療効率や患者様の満足度まで大きく左右されます。
例えば、「家賃が安いから」「駅前だから」という理由だけで物件を選んでしまうと、想定以上の内装工事費が発生したり、医療設備を十分に設置できなかったりするケースも少なくありません。
反対に、診療内容や将来の事業計画まで見据えて適切な物件を選ぶことができれば、初期投資を抑えながら、長期的に安定したクリニック経営につなげることができます。
今回は、クリニック開業に適したテナント物件の種類や特徴、それぞれのメリット・デメリット、物件選びで押さえておきたいポイントについて詳しく解説します。
この記事で分かること
- クリニック開業に適したテナント物件の種類
- スケルトン・事務所仕様・居抜き物件の違い
- それぞれのメリット・デメリット
- 物件選びで失敗しないための考え方
- 自院に適した物件を選ぶポイント
なぜテナント選びが重要なのか?
クリニックのテナントは、「診療を行う場所」というだけではありません。
物件の選択は、
- 開業資金
- 工事費用
- 開業までのスケジュール
- 患者様の利便性
- スタッフの働きやすさ
- 将来的な事業拡大
など、多くの要素に影響します。
一度契約すると簡単に変更することはできないため、開業準備の中でも特に慎重に検討すべき項目の一つです。
また、同じ家賃・同じ広さの物件であっても、内装の状態や設備によって追加工事費用が数百万円以上変わるケースもあります。
そのため、「家賃」だけではなく、「総合的な開業コスト」という視点で物件を比較することが重要です。
クリニック開業に適したテナントの種類と特徴
テナント物件は、大きく次の3種類に分類されます。
それぞれ特徴が異なるため、自院の診療内容や開業予算に合わせて選択することが重要です。
| 内装の状態 | 特徴 | 初期費用 |
|---|---|---|
| スケルトン | 一から自由に設計できる | 高い |
| 事務所仕様 | 基本内装が完成している | 中程度 |
| 居抜き | 前テナント設備を利用できる | 比較的低い |
一般的には、
自由度は「スケルトン」が最も高く、初期費用は「居抜き」が最も低い
という特徴があります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.スケルトン物件の利点と注意点
スケルトン物件は、内装がすべて取り除かれた状態の物件で、自分のクリニックの理想像を自由に設計できる点が大きな魅力です。
一から内装を作り上げることで、診療科や医療機器に合わせた最適な空間を実現できます。
例えば、
- 診察室の配置
- 処置室の広さ
- 待合室のデザイン
- バリアフリー設計
- 将来的な増築への対応
など、自院のコンセプトに合わせて自由に設計できます。
その反面、内装工事や医療設備の導入に多額の費用がかかる点に注意が必要です。
また、退去時に原状回復義務が生じる契約も多いため、そのための費用も見込んでおく必要があります。
さらに、内装工事の内容によっては設計期間や工事期間が長くなり、開業時期に影響する可能性もあります。
自由度が高い一方で、十分な資金計画とスケジュール管理が求められる物件と言えるでしょう。
2.事務所仕様物件の活用
事務所仕様の物件は、すでに基本的な内装が整っているため、スケルトン物件に比べて工事の規模が小さく、比較的短期間でクリニックとして開業できる場合があります。
基本的な内装が完成していることから、初期コストを抑えることも可能です。
一方で、オフィスとして設計されているため、医療機関として利用するには追加工事が必要になるケースも少なくありません。
例えば、
- 給排水設備の増設
- 電気容量の増強
- 医療機器への対応
- 空調設備の変更
- 換気設備の追加
などが必要になることがあります。
そのため、工事費がどの程度発生するのかを事前に確認し、スケルトン物件との総費用を比較したうえで判断することが重要です。
3.居抜き物件の魅力とリスク
居抜き物件は、前のテナントが残した内装や設備をそのまま利用できる物件です。
前のテナントが医療機関であった場合、既存の医療設備を流用できるため、初期投資を大幅に抑えられることが大きな魅力です。
また、受付や待合室、診察室などがそのまま利用できれば、工事期間を短縮できる可能性もあります。
そのため、早期開業を目指す先生にとっては有力な選択肢となるでしょう。
しかし、既存の設備が診療内容に適合しない場合には、改修や設備の入れ替えが必要となるため、その際のコストと手間を見積もっておくことが重要です。
また、設備が古い場合には、修繕費や更新費用が発生する可能性もあります。
居抜き物件は「初期費用が安い」というイメージがありますが、設備の状態や契約内容によっては想定以上の費用が発生することもあります。
物件の状態や使い勝手を十分に確認し、必要に応じて設計会社や施工会社にも現地調査を依頼したうえで判断することをおすすめします。
クリニック開業におけるテナント物件選び|仕様の詳細と注意点
テナントの種類を理解したら、次に重要となるのが「実際に診療できる物件かどうか」を見極めることです。
同じ広さの物件でも、レイアウトや設備によって診療効率や患者様の満足度は大きく変わります。
また、開業当初だけではなく、将来的な患者数の増加や診療内容の拡充まで見据えて物件を検討することも重要です。
ここからは、物件選びの際に確認しておきたい具体的なポイントについて解説します。
広さとレイアウトの考慮
クリニックの診療科目や提供するサービスによって、必要な面積は異なります。
例えば、内科や皮膚科などの一般診療であれば、診察室、待合室、受付、スタッフルームを含めて、おおよそ50〜100㎡程度が一つの目安となります。
一方、整形外科やリハビリ施設を併設する場合は、リハビリスペースや運動療法室など広い空間が必要になるため、150㎡以上を確保するケースも少なくありません。
もちろん、必要な面積は診療方針や導入する医療機器、スタッフ数によっても変わります。
そのため、「現在必要な広さ」だけではなく、「数年後にどのようなクリニックを目指すのか」という視点で検討することが重要です。
診療科ごとに求められる広さは異なる
例えば、
- 内科
- 小児科
- 皮膚科
などでは比較的コンパクトな診療スペースでも運営可能な場合があります。
一方で、
- 整形外科
- リハビリテーション科
- 泌尿器科
- 消化器内科(内視鏡)
- 婦人科
などでは、検査室や処置室、リハビリスペースなどが必要になるため、より広い物件が求められます。
診療科によって必要な部屋や設備が異なるため、物件探しの段階で必要面積を整理しておくことが大切です。
レイアウトと患者動線を考える
物件の広さだけではなく、「どのようなレイアウトにするか」も非常に重要です。
例えば、診察室が待合室から遠すぎると患者様が迷いやすくなり、初めて来院される方にとって分かりにくいクリニックになってしまいます。
受付から診察室、会計までの流れが自然であることは、患者様の満足度向上にもつながります。
また、高齢者や小さなお子様を連れた保護者にとっても、分かりやすい動線は安心感につながります。
スタッフ動線も重要
患者様だけではなく、スタッフの動線も考慮する必要があります。
例えば、
- 診察室
- 処置室
- 検査室
- 消毒室
- バックヤード
などを効率良く配置することで、スタッフの移動距離を短縮でき、診療効率の向上につながります。
一見すると小さな違いに思えますが、毎日繰り返される業務だからこそ、動線設計はクリニック全体の生産性にも大きく影響します。
必要な部屋を整理する
クリニックには、受付と診察室だけではなく、さまざまな機能を持つ部屋が必要になります。
一般的には、以下のようなスペースが求められます。
- 受付
- 待合室
- 診察室
- 処置室
- トイレ
- 更衣室
- スタッフ休憩室
- バックヤード
- 医療廃棄物保管スペース
さらに、診療科によっては、
- レントゲン室
- 内視鏡室
- リハビリ室
- 手術室
- カウンセリングルーム
- 感染症患者専用の診察室
などが必要になる場合もあります。
そのため、単純に「○㎡あれば十分」と考えるのではなく、自院の診療内容に必要な部屋を洗い出したうえで物件を検討することが重要です。
将来の拡張性も考えておく
開業当初は十分な広さでも、数年後には手狭になるケースがあります。
例えば、
- 医師を増員する
- 診察室を増設する
- リハビリを開始する
- 内視鏡を導入する
- スタッフを増員する
など、クリニックの成長に伴い必要なスペースは変化していきます。
そのため、現在だけではなく、5年後、10年後も見据えた物件選びを行うことが望ましいでしょう。
「今ちょうど良い広さ」ではなく、「将来にも対応できる広さ」という視点を持つことで、移転や大規模改修のリスクを減らすことができます。
レイアウトは患者満足度にも影響する
クリニックのレイアウトは、単なる間取りではありません。
患者様が安心して受診できる環境づくりや、スタッフが効率良く働ける環境づくりにも直結します。
また、感染対策やプライバシー保護など、近年ではレイアウトに求められる役割も増えています。
設計会社や施工会社と十分に打ち合わせを行い、診療スタイルに合ったレイアウトを検討することが、長く地域に選ばれるクリニックづくりにつながるでしょう。
医療機関に適した電気・水道設備
テナント物件を選ぶ際には、広さや立地だけでなく、医療機関として必要な設備が整えられるかどうかも重要な確認ポイントです。
一般的なオフィスや店舗として使用されていた物件では、医療機関が必要とする設備仕様を満たしていないことも少なくありません。
そのため、契約後や工事開始後に「設備が不足していた」という事態を避けるためにも、事前確認が重要になります。
電気容量の確認
クリニックには特別な電気設備が必要になることがあります。
例えば、X線装置やMRI、CTなどの大型医療機器を導入する場合、通常のテナントよりも多くの電力を消費するため、物件の電気容量が十分かどうかを確認する必要があります。
電力が不足している場合、受変電設備の増設や電気工事が必要になることがあり、その際には数百万円単位の追加費用が発生するケースもあります。
また、大型医療機器を導入しない診療科であっても、
- 電子カルテ
- 画像診断システム
- 自動精算機
- 空調設備
- 医療機器
など、多くの設備が同時に稼働します。
そのため、現在だけではなく、将来的な設備増設も見据えた電気容量を確保しておくことが望ましいでしょう。
水道・排水設備の確認
また、歯科や内視鏡検査を行うクリニックでは、多くの水を使用するため、水道の供給量や排水能力も重要です。
医療行為に伴う特別な排水処理が必要になる場合もあるため、物件の水道配管や排水設備がそれに対応できるか事前に確認しておくべきです。
さらに、
- シンクの設置位置
- 手洗い設備
- 給湯設備
- 排水勾配
なども診療内容によって求められる仕様が異なります。
特に古い建物では配管の更新が必要になることもあるため、施工会社や設備業者と一緒に現地確認を行うことをおすすめします。
保健所の基準をクリアする
内装工事に入る前に、必ず保健所へ確認を行い、必要な設備や基準を満たしているか確認しましょう。
特に、給排水設備や換気設備は、衛生面からも非常に重要です。
後から基準に合わないことが判明すると、多額の費用と時間を失う可能性があります。
保健所への事前相談は、「工事が終わってから」ではなく、「設計段階」で行うことが重要です。
設計図面の段階で確認を受けることで、大きな設計変更を防ぐことができます。
診療科によって必要な基準は異なる
保健所の確認事項は診療科によっても異なります。
例えば、
- 内科
- 小児科
- 整形外科
- 歯科
- 内視鏡クリニック
では、求められる設備や衛生基準が異なる場合があります。
そのため、設計会社や施工会社だけに任せるのではなく、自身でも事前に確認しておくことが大切です。
また、都道府県や自治体によって運用が異なるケースもあるため、開業予定地を管轄する保健所へ早めに相談することをおすすめします。
バリアフリー対応の重要性
高齢者や体の不自由な方も来院することが多いクリニックにおいて、バリアフリー対応は非常に重要です。
たとえば、車椅子の患者がスムーズに移動できるよう、エレベーターの有無や段差のない設計になっているかを確認することが必要です。
また、
- 広い廊下
- 自動ドア
- 車椅子対応トイレ
- 手すり
- 十分な待合スペース
なども、患者様にとって重要なポイントになります。
近年では、高齢化の進展に伴い、バリアフリー対応は患者満足度だけでなく、クリニック選びの重要な判断材料にもなっています。
建物全体も確認する
特に、2階以上の物件を検討する場合、エレベーターがないと高齢者や身体障がい者にとってアクセスが不便になるため、できるだけ1階の物件を選ぶか、エレベーターの設置が可能かどうかも確認しましょう。
また、クリニック内部だけでなく、
- 建物入口
- 駐車場
- 駐輪場
- 歩道からの導線
まで含めて確認することが大切です。
患者様は建物へ入る前からクリニックを利用しています。
「建物全体が利用しやすいか」という視点を持つことも重要です。
防音対策の必要性
クリニックにおいて、患者のプライバシー保護は重要な要素の一つです。
診察室での会話が待合室に聞こえてしまうのを防ぐために、防音対策が必要です。
物件の防音性能や、壁やドアの遮音性を事前に確認しておきましょう。
特に、隣接する店舗や住居があるテナントビルでは、診療中の音漏れが他のテナントに迷惑をかけないような対策が求められます。
また、防音対策は患者様の安心感にも直結します。
安心して症状を相談できる診察環境を整えることは、クリニックへの信頼にもつながります。
診療科によって求められる防音性能
また、小児科や歯科など、子どもが多く来院するクリニックでは、待合室や診療室での騒音対策も重要です。
患者さんがリラックスできる環境を提供するためにも、防音性能を高める工夫を行いましょう。
さらに、
- 心療内科
- 精神科
- 婦人科
- 泌尿器科
など、患者様のプライバシーへの配慮が特に求められる診療科では、防音性能がクリニックの評価にも影響する場合があります。
設計段階から遮音性能を考慮することで、患者様が安心して相談できる診療環境を整えることができます。
将来の移転や閉院も視野に入れて立地を選定する
クリニックを開業する際には、「開業時」の条件だけで物件を判断するのではなく、将来的な経営環境の変化も見据えて立地を選定することが重要です。
クリニックは一般的な店舗とは異なり、一度開業すると長期間その地域で診療を続けることが前提となります。
そのため、現在の人口や人通りだけではなく、
- 将来人口の推移
- 年齢構成の変化
- 周辺の再開発計画
- 住宅開発の予定
- 競合クリニックの増減
なども確認しておくことが望ましいでしょう。
例えば、人口減少が進む地域では患者数の減少につながる可能性があります。一方で、新しい住宅地の開発や再開発が予定されている地域では、将来的に患者数が増加する可能性もあります。
また、現在は競合が少なくても、医療モールの新設や大型商業施設へのクリニック開業などにより、数年後には競争環境が大きく変わることもあります。
物件を選ぶ際は、「今の条件」だけでなく、「10年後、20年後も地域に必要とされる立地か」という長期的な視点を持つことが大切です。
契約条件も必ず確認する
物件を選ぶ際には、建物や設備だけでなく、契約条件についても十分に確認しましょう。
例えば、
- 契約期間
- 更新条件
- 中途解約の条件
- 原状回復義務
- 保証金・敷金
- 看板設置の可否
- 駐車場の利用条件
- 共益費や管理費
などは、将来の経営にも大きく影響します。
特にクリニックでは、内装工事に多額の投資を行うため、短期間で退去せざるを得ない契約内容では大きなリスクとなります。
契約内容に不明点がある場合は、不動産会社だけで判断せず、必要に応じて専門家へ相談することも重要です。
テナント選びは「総合的な判断」が重要
理想的なテナント物件は、「家賃が安い物件」でも、「駅前の物件」でもありません。
クリニック開業では、
- 診療内容
- 開業資金
- 診療圏
- 将来性
- 患者様の利便性
- スタッフの働きやすさ
- 建物設備
- 契約条件
など、さまざまな要素を総合的に判断する必要があります。
一つの条件だけで決定するのではなく、それぞれのメリット・デメリットを比較し、自院のコンセプトに最も適した物件を選ぶことが、長期的に安定したクリニック経営につながります。
まとめ
クリニック開業に最適なテナント物件を選ぶためには、それぞれの物件の特徴を理解し、自分のクリニックに合った物件を選ぶことが大切です。
また、立地や建物、内装、設備、契約条件など、様々な要素を総合的に判断し、将来のことも見据えて物件を選定しましょう。
テナント選びは、単に「開業できる場所」を探す作業ではありません。
診療のしやすさ、患者様の満足度、スタッフの働きやすさ、そして将来のクリニック経営まで左右する重要な意思決定です。
物件を比較する際には、初期費用だけで判断するのではなく、長期的な運営コストや将来的な拡張性も含めて検討することが大切です。
開業後に「この物件にして良かった」と思えるよう、十分な情報収集と事前準備を行い、自院に最適なテナント物件を選びましょう。
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